翻訳と整理収納に共通する「整える力」

はじめに:異なる分野に共通する「整える力」

翻訳と整理収納は、一見するとまったく別の分野に思えるかもしれません。翻訳は言葉を扱い、整理収納はモノや空間を扱います。

しかし、どちらにも共通している大切な要素があります。それが「整える力」です。

私は実務翻訳者(主に日英技術翻訳を担当)として仕事を続ける一方で、整理収納アドバイザーの資格も取得しています。両方に関わってきたからこそ気づいたのは、「言葉を整える」ことと「空間を整える」ことには驚くほど似ている部分がある、ということです。

本記事では、技術翻訳と整理収納に共通する考え方や効果を掘り下げながら、日常や仕事に役立つ「整える力」についてお伝えします。

翻訳における整える力

翻訳は、単に言語を置き換える作業ではありません。特に、技術翻訳においては、複雑な原文を理解し、それを読み手にとって「正確(Correct)」「明確(Clear)」「簡潔(Concise)」に表現することが求められます。


例えば、技術文書やマニュアルの翻訳では、専門用語を誤れば大きな誤解や事故につながる可能性があります。そこで必要なのは、言葉を丁寧に選び、全体の整合性を保ちながら文章を仕上げる力です。

翻訳とは、「読み手のために情報を整理する」力が強く求められ、言葉の雑多な情報を整え、最も自然で伝わりやすい形に仕立てる作業だといえるでしょう。

整理収納における整える力

一方で、整理収納もまた「複雑をシンプルにする」力が問われる分野です。家の中にあるモノは、生活の流れや習慣と深く結びついています。ただ片づけるだけではなく、「何を残すか」「どこに置くか」を決めることで初めて、使いやすく快適な空間が生まれます。

整理収納の基本は、不要なものを取り除き、必要なものを適切な場所に収めることです。モノが多すぎると、探し物に時間を取られたり、気持ちが乱れたりします。

逆に、整えられた空間では動線がスムーズになり、心に余裕が生まれます。まさに「正確にモノを選び、明確に配置し、簡潔にまとめる」という点で、翻訳のプロセスと同じ役割を果たしているのです。

共通するポイント:複雑をシンプルにする

翻訳と整理収納の大きな共通点は、「複雑なものをわかりやすく整理する」という点にあります。翻訳は「情報の整理」、整理収納は「モノの整理」です。

両者に共通するプロセスを見てみましょう。

  • 分析する:翻訳では原文の意味を深く理解し、整理収納では持ち物の役割や必要性を見極めます。
  • 取捨選択する:翻訳では複数の訳語から最も適切なものを選び、整理収納では不要なものを手放し、必要なものを残します。
  • 構造化する:翻訳では文章を自然でわかりやすく組み立て、整理収納ではモノを生活動線や使用頻度に応じて配置します。

このように「整える力」は、言葉とモノ、どちらにおいても同じ働きをしているのです。

翻訳と整理収納がもたらす効果

翻訳がきちんと整えられていれば、情報は誤解なく伝わり、読者やユーザーに安心感を与えます。たとえば、製品マニュアルがわかりやすければ、使用者は迷わず操作でき、企業への信頼も高まります。

同じように、整理収納によって部屋が整えられると、探し物の時間が減り、家事や仕事が効率的になります。さらに、整った空間は気持ちを落ち着け、ストレスを軽減し、集中力を高めます。

つまり、翻訳も整理収納も「余計な混乱を取り除き、本当に必要なことに集中できる状態をつくる」という効果を持っています。整える力は、相手にとっても自分にとってもプラスの循環を生み出す力だといえるでしょう。

仕事や生活への応用:誰もが使える「整える力」

「整える力」は翻訳者や整理収納アドバイザーだけに必要なスキルではありません。

たとえば、メールを書くときに文を整理して相手に伝わりやすくすること、スケジュールを見直して優先順位を整えること、机の上を片づけて作業効率を上げることなど、誰にでも日常で応用できます。

私自身、翻訳の仕事を通じて「言葉を整える力」を磨き、整理収納を学んだことで「空間を整える力」を深めました。その二つの経験が相互に作用し、仕事の効率も暮らしの快適さも高まったと感じています。

もし今、日常や仕事に何かモヤモヤした混乱を感じている方は、言葉や空間を少し整えてみることから始めてみてください。小さな一歩でも、驚くほど大きな変化につながることがあります。

おわりに

翻訳と整理収納という、一見異なる二つの分野に共通するキーワードは「整える力」です。言葉を整えることでコミュニケーションが円滑になり、空間を整えることで心と生活に余裕が生まれます。そのどちらも、人生をより豊かにするための大切な要素です。

私が翻訳者として、そして整理収納アドバイザーとして感じてきたことをこれからも発信していきたいと思います。読者の皆さんもぜひ、自分にとっての「整える力」を日常に取り入れてみてください。それが、仕事にも暮らしにもプラスの影響をもたらす第一歩になるはずです。

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この記事を書いた人

神谷似顔絵

神谷 あきこ

1973年、静岡県浜松市生まれ。
同志社女子大学学芸学部英文学科卒。
大学卒業後、オーストラリア・シドニーのUniversity of Technology, Sydneyに1年間留学し、現地の中学・高校教員免許を取得。約2年半にわたりメルボルンの中学・高校で日本語教師として勤務。その後、シドニーに戻り、語学研修を専門とする旅行会社で約2年間コーディネーターを務める。
20代後半に故郷の浜松に戻り、派遣社員としてさまざまな企業に勤務。英文事務、海外ユーザーサポート、英語マニュアルの作成、社内技術翻訳など、英語を活かした業務に幅広く携わる。